認知症・軽度認知障害(MCI)

物忘れがひどいのは認知症の初期症状?加齢によるものとの違いやチェック方法を解説

「最近、物忘れがひどくなっている……」
「買い物に来たけど、帰りの道がわからなくなった…」
このようにご自身やご家族の物忘れが以前よりひどくなっていると感じる方も少なくないでしょう。

物忘れには、加齢によるものと認知症によるものがあります。物忘れが以前より強くなり、生活にまで支障を起こしている場合、認知症を発症している可能性も少なくありません。

認知症は発症の前段階である軽度認知障害(MCI)の状態で適切な予防を実施すれば、進行を遅らせることも期待できます。そのため、変化に早めに気づくことが大切です。

この記事では、加齢による物忘れと認知症の物忘れの違いについてご紹介します。併せて認知症の種類やチェック方法、治療についても解説しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

監修

尾西こころのクリニック
院長 河邊眞好

名古屋市立大学医学を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療・訪問診療等に従事。稲沢厚生病院部⾧を経て、現在は医療法人優真会尾西こころのクリニック院⾧として地域に密接した精神医療に尽力しています。

普通の物忘れと認知症による物忘れの違い

加齢に伴う物忘れは、年齢を重ねていく上で誰にでもみられるものです。一方で、歳を重ねるにつれ物忘れが目立ち始めると「認知症が始まってしまったかな……」と不安になる方も少なくないでしょう。

加齢による物忘れと認知症では、忘れている内容や質が大きく異なります。

ここでは両者の違いについて詳しく解説します。

加齢による物忘れの特徴

加齢による物忘れは誰にでも起こりうる身体の変化です。

例えば、「昨日食べたご飯を思い出せない」「久しぶりに会った同級生の名前が出てこない」など、日常場面で物忘れを意識することがあります。

加齢による物忘れはヒントがあれば思い出せたりエピソード自体は覚えていたりするのが特徴です。「昨日食べたご飯はすぐには思い出せないけど、食べたこと自体は覚えている」など、記憶の一部が抜けているだけで、全体を忘れているわけではありません。

また、加齢による物忘れでは記憶の痕跡が脳に残っているため、時間や場所などの手がかりを与えられると、「そういえば、あれを食べたな」と思い出すことができるのも特徴の1つです。

認知症の物忘れの特徴

認知症では「記憶そのもの」が抜け落ちる場合が多く、以下のような特徴があります。

  • 体験そのものを忘れる
  • 同じ質問を何度も繰り返す
  • 日付や予定が思い出せない
  • 料理、買い物、金銭管理などの身の回りのことが難しくなる

加齢による物忘れと違い、認知症では生活に大きく影響することも特徴です。認知症が進行すると、本人が物忘れを自覚していないケースも多く、家族に負担がかかることも少なくありません。認知症は早期に気づいて適切な対応を取ることが重要です。


認知症の種類

厚生労働省の報告(2023年発表、2022年時点推計)によると、65歳以上の高齢者における認知症の方は443.2万人とされており、65歳以上の12%(約8人に1人)が該当する結果となりました。[1]

認知症の主なものには「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4つの種類があり、それぞれ原因や症状が異なります。

ここでは4つの認知症について特徴や症状を詳しく解説します。それぞれの特徴を理解し、早期発見に役立ててください。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は最も多い認知症で、認知症の半数以上を占めています。脳内にアミロイドβという異常なタンパク質が蓄積することで、脳の神経細胞が少しずつ壊れていき、脳が萎縮して発症する病気です。[2]

主な症状は、出来事に対する記憶障害です。新しいことを記憶したり、過去の出来事を思い出したりする能力が低下します。具体的には、約束を忘れたり、物の置き場所がわからなくなったり、話したことを忘れて同じ話を繰り返すといった症状がみられます。

自分が片付けた場所を忘れてしまい、誰かに盗られたと思ってしまう、物盗られ妄想がみられることもあります。

そのほかにも、今日が何月何日なのか、今いる場所がどこなのかといった、時間や場所の感覚が分からなくなる見当識障害も多いです。[3]

また、慣れた道で迷う、服の前後がわからなくなるといった視空間障害、道具の使い方や服の着方など、経験として覚えた動作ができなくなる失行なども特徴的です。[3]

血管性認知症

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害が原因となる認知症です。脳の血管が詰まったり破れたりすることで、神経細胞が損傷し認知機能の障害が引き起こされます。

血管性認知症の主な症状は、実行機能障害です。[4]これは、計画的な行動が難しくなる状態で、例えば、レシピがあるにもかかわらず料理を作れない、予定外のことが起こると対処できないといった症状があらわれます。

また、やる気が起きない、自ら行動しなくなるといった症状や、頭の考えが遅くなる、考えがまとまらないなどの思考速度の低下も特徴的な症状です。

ほかにも身体面の症状として、手足の震えや動作のぎこちなさがみられるパーキンソニズムや、歩行障害などがみられるケースも少なくありません。[4]

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、パーキンソン病の原因ともされるレビー小体という異常なタンパク質が脳内に蓄積し、その結果、神経細胞が減少することで発症する認知症です。

レビー小体型認知症では、発症初期は記憶障害や見当識障害がみられにくいです。一方で、幻視と呼ばれる、実際には存在しない人物や虫、動物などが、まるで現実のように鮮明に見える症状が特徴の1つです。

身体面の症状では、動作や歩行がゆっくりとなり、声が小さくなる、手足の震えがあるなどのパーキンソニズムがみられます。レビー小体型認知症では、幻視やパーキンソニズムにより転倒しやすいため、転倒しないような配慮(環境調整、介助など)が必要となります。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉を中心に神経細胞が壊れ、脳が萎縮していくことで発症する認知症です。

前頭側頭型認知症の場合、物忘れより行動や人格の変化が初期症状として目立ちます。具体的には、社会的に不適切な行動をとるようになったり、同じ行動を繰り返す常同行動が見られたりします。

その結果、「性格が変わったように感じる」と家族が気づくケースが多いです。

また、言葉をうまく話せなくなる失語といった言語の障害も初期から現れることもあります。


認知症の前兆「軽度認知障害(MCI)」とは?

軽度認知障害(以下、MCI)とは、認知症そのものではありませんが、健常な状態でもない、認知症と健常の中間のような状態を指します。[5]

認知症予防にはMCIの状態で健常とは違う状況に気づき、進行を食い止めることが大切とされています。

MCIは認知症の前段階

MCIは、認知症と診断される一歩手前の状態です。認知機能や日常生活に障害がみられると認知症と診断されますが、MCIは、認知機能の障害はあるものの、日常生活に支障が出ていない状態を指します。[5]

MCIの症状

MCIでは、記憶力に軽度の低下がみられる場合が多いとされています。[5]以前と比べて物忘れが多くなったと感じたり、家族や周囲の人から物忘れを指摘されることが多くなったりします。

一方で、家事や買い物、金銭管理といった日常生活への大きな支障はなく、どうにか日常生活は送れるけれど、テキパキと行うことは難しくなっている状態です。慣れている場所に行ったり、使い慣れた機械は使えたりはできますが、新しい場所や使ったことのない機械では混乱する可能性があります。

MCIの段階で適切に対策すれば進行を遅らせることができる

MCIは認知症の前段階とされていますが、必ずしもMCIの方が認知症になるわけではありません。MCIの方のうち、1年で約5〜15%の方が認知症に移行する一方で、約16〜41%の方は健常な状態になることがわかっています。[5]

MCIの段階で、早めに食事や運動といった認知症予防の対策を行うことで、健常な状態へ回復も期待できるでしょう。また、認知症への移行を遅らせることも期待できます。[5]物忘れが多くなったと感じたら、早めに専門機関に相談し適切な予防法をとることが大切です。


認知症のチェックリスト

下記は認知症によくみられる症状です。ご自身や周りの方で物忘れが目立つ場合、下記の内容に該当しないかチェックしてみましょう。

  • 道に迷うことが増えた
  • 約束の内容を完全に忘れている
  • 家族から指摘を受ける
  • 同じ話を何度も繰り返すようになった
  • 家族や親しい人から物忘れについて指摘されることが増えた
  • 1人で買い物に行くことに自信が持てなくなった、またはできなくなった
  • 料理や金銭管理など、以前は当たり前にできていたことが難しく感じるようになった

 

認知症の治療

アルツハイマー型認知症や血管性認知症など先述した4つの認知症は根本的な治療が難しいとされています。[6]できる限り症状を軽くし、進行のスピードを遅らせることが治療の目標となります。

治療には薬物療法と非薬物療法があり、両者を組み合わせてその人に合った治療法を選択するケースが多いです。

ここでは認知症の治療法について詳しくご紹介します。

薬物療法

薬物療法の目的は、病気の進行を穏やかにすること、あるいは生活を困難にしている特定の症状を和らげることです。

認知症の種類で最も多いアルツハイマー型認知症では、コリンエステラーゼ阻害薬NMDA受容体拮抗薬を処方します。治療薬により脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、記憶力や判断力の低下を抑えることを目指します。

コリンエステラーゼ阻害薬では吐き気や下痢、徐脈、NMDA受容体拮抗薬ではめまい・傾眠などの副作用がみられることがあるため、専門医と相談しながら薬の経過を見ていくことが大切です。[7]

非薬物療法

非薬物療法では、認知症の症状の緩和や生活の質を向上させる目的でリハビリテーションを中心に以下のような内容を実施します。[8]

回想法 過去の思い出や楽しかった経験を語り合い、記憶や意欲の向上、情緒の安定を促す
認知訓練 机上での記憶課題や注意課題などの認知課題を実施する
音楽療法 音楽を聞いたり歌ったりすることで、感情の安定や適切なコミュニケーションを促す
運動療法 さまざまな運動を少しきついくらいの強度で週3回程度実施する
レクリエーション活動 創作活動や運動、ゲームなどを通じて、心身の活性化を図る

 

 

物忘れがひどいと感じたら、早めに専門機関へ相談しよう

物忘れはだれにでも起こる現象ですが、日常生活にまで支障がみられているのであれば認知症の可能性があります。

認知症の前段階であるMCIの状態で認知症予防に取り組むことで、認知症の発症を予防できるかもしれません。

物忘れがひどいと感じ、生活にまで影響が出ているのであれば、一度専門機関に相談してみましょう。


参照

[1] 厚生労働省|認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計

[2] 政府広報オンライン|知っておきたい認知症の基本

[3] Alistair Burns,Diagnosis and management of Alzheimer's disease,Dialogues Clin Neurosci. 2000 Jun;2(2):129–138

[4] 北川一夫,高齢者の脳血管性認知症,日本老年医学会雑誌,54,519-523,2017

[5] あたまとからだを元気にするMCIハンドブック

[6] 新妻邦泰,認知症に対するMuse細胞による革新的治療法の開発,科学研究費助成事業 研究成果報告書

[7] 久德由美子,三原雅史,認知症の薬物療法,日本リハビリテーション医学,55,643-647,2018

[8] 田中尚文,認知症リハビリテーションの現状とエビデンス,日本リハビリテーション医学,55,653-657,2018