親の物忘れがひどいときは?家族が見るべき変化と相談の目安

親の物忘れが以前より増えると、「年齢のせいなのか、認知症なのか」と不安になる方は少なくありません。何度も同じ話をしたり、予定を忘れたりする様子を見ると、家族としてどう対応すればよいのか迷うこともあるでしょう。
物忘れの原因は、認知症だけではありません。加齢や疲労、睡眠不足、気分の落ち込みなどが影響している場合もあります。一方で、生活に支障が出ている場合や、気分・性格の変化がみられる場合は、早めの相談を検討しましょう。
この記事では、親の物忘れが気になるときに確認したい生活の変化、受診をすすめる際の声かけ、相談先について解説します。
監修
尾西こころのクリニック
院長 河邊眞好
名古屋市立大学医学を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療・訪問診療等に従事。稲沢厚生病院部⾧を経て、現在は医療法人優真会尾西こころのクリニック院⾧として地域に密接した精神医療に尽力しています。
親の物忘れがひどいと感じたら生活の変化を確認
親の物忘れが日に日にひどくなっていると感じると、「認知症の始まり?」と不安になる方も少なくないでしょう。
一方で、年齢を重ねると物忘れが増えることもあるため、どの段階で注意すべきか判断に迷うこともあります。
親の物忘れが気になったときは、まず「生活にどのような影響が出ているか」を確認しましょう。単なる物忘れなのか、日常生活に支障が出始めているのかを見ることで、受診や相談を考える目安になります。
ここでは、物忘れと生活の変化との関係や、家族が気づきやすいサインについて解説します。
同じ話よりも「生活に支障があるか」を見る
認知症に気づくきっかけの一つに、同じ話を何度も言う様子があります。たとえば、同じ予定を何度も確認したり、家族に伝えた内容を忘れて再び話したりするケースはイメージしやすいでしょう。
ただし、同じ話をするからといって、すぐに認知症と判断できるわけではありません。疲れやストレス、睡眠不足などによって、一時的に物忘れが増えることもあります。
一方で、物忘れにより生活に支障がみられてくると、注意が必要です。以前は問題なくできていたことに時間がかかる、家事や身の回りの管理がうまくいかなくなっているなど生活面での変化がないか確認しましょう。
家族が気づきやすい生活のサイン
親の物忘れが気になるときは、日常生活の中で次のような変化を意識してみましょう。
- 冷蔵庫に豆腐がたくさんあるのに新しく買ってくる
- 飲み忘れた薬が大量に残っている
- 郵便物や請求書がポストから溢れている
- 火の消し忘れに気づかず鍋を焦がす
- 財布や通帳を頻繁に探し落ち着かない
- 髪がボサボサ、着替えをしなくなるなど身だしなみが以前と違う
- 料理や片付けがうまくいかない
たとえば、冷蔵庫に同じ食品がいくつも入っている場合、買ったことを忘れて再び購入している可能性があります。
また、元々自分で管理できていたのに薬の飲み忘れが増えたり、請求書の支払い忘れなどが増えたりすると、健康管理や生活管理にも影響が出ることもあるでしょう。
火の消し忘れは、家族が特に注意したい変化です。本人に悪気はなくても、事故につながるおそれがあるためです。さらに、以前は整っていた身だしなみや部屋の片付けに興味がなくなる、料理の手順が分からなくなるといった変化がみられる場合もあります。
これらの変化が一時的なものであれば、疲れや環境の変化が影響していることもあります。一方で、以前と比べて明らかに生活の中で困る場面が増えている場合は、早めに相談を考える目安にもなるでしょう。
親の物忘れがひどくなる原因は認知症だけではない
親の物忘れが増えると認知症を心配しやすいですが、背景にはさまざまな要因があります。
ここでは、加齢や体調、気分の変化など、物忘れに関係しやすい要因を整理します。
加齢による物忘れの場合もある
年齢を重ねると、以前より人の名前がすぐに出てこなかったり、何を取りに来たのか一瞬忘れたりすることがあります。こうした物忘れは、加齢に伴ってみられるケースも少なくありません。
加齢によるもの忘れの例として「朝ごはんを食べたことは覚えているが、メニューが思い出せない」状態が挙げられます。一方で、食べたこと自体を忘れる場合は、認知症による物忘れの特徴として示されています。[1]
そのため、あとから思い出せる場合や、日常生活に大きな支障が出ていない場合は、すぐに認知症と結びつける必要はありません。
関連記事:物忘れがひどいのは認知症の初期症状?加齢によるものとの違いやチェック方法を解説
体調不良や気分の落ち込みが影響することもある
物忘れは、体調や心の状態に影響されることもあります。たとえば、睡眠不足や疲労が続いていると集中力が落ち、予定や用事を忘れやすくなることがあります。こうした経験は、高齢者に限らず、誰にでもあるでしょう。
また、気分の落ち込みやうつ状態が続くと、意欲や注意力が低下し、話の内容や予定が頭に入りにくくなることがあります。
その結果、本人は「聞いていない」「覚えていない」と感じ、家族からは物忘れが増えたように見える場合も少なくありません。服用している薬の影響や、聴力の低下が関係することもあります。[2]
関連記事:気分の落ち込みはうつ病のせい?チェック方法や治療法をわかりやすくご紹介
親に病院受診をすすめるときの声かけ
親の物忘れが気になっても、いきなり病院受診をすすめると、本人が不安になったり反発したりする状況になりかねません。特に「認知症かもしれない」と決めつけるような言い方は避け、体調を気づかう形で声をかけることが大切です。
ここでは、親に病院受診を促すときに、避けたい声かけと受け入れてもらいやすい声かけをご紹介します。
避けたい声かけ
「また忘れたの?」「前にも言ったよ」などの言葉は、本人を責めているように伝わることがあります。また、「認知症なんじゃない?」と直接伝えると、不安や抵抗感が強くなり、受診につながりにくくなる場合もあります。
認知症の初期では、本人も「前より忘れっぽくなった」「何かおかしい」と不安を感じている方も少なくありません。[1]そのため、物忘れについて強く指摘すると、責められたように感じ受診への拒否につながりかねません。
物忘れを指摘するときは、本人の自尊心を傷つけないよう注意しましょう。
受け入れてもらいやすい声かけ
受診をすすめるときは、認知症という言葉を前面に出すよりも、体調確認として伝えると受け入れてもらいやすくなります。
たとえば、次のような声かけを意識してみましょう。
- 「最近少し疲れているのかもしれないね」
- 「一度、体調を見てもらおうか」
- 「私も心配だから一緒に相談したい」
このように伝えることで、本人は「責められている」のではなく、「心配してくれている」「一緒に考えてくれている」と受け止めやすくなります。
本人を責めるのではなく、「一緒に確認しよう」という共感の姿勢で伝えることで、受診への抵抗感をやわらげやすくなるでしょう。
受診前に家族がメモしておきたいこと
親の物忘れについて病院で相談するときは、家族が気づいた変化を事前にメモしておくと、医師に状況を伝えやすくなります。本人の前では話しにくい内容もあるため、受診前に整理しておくと安心です。
メモの具体的な内容は、物忘れがいつ頃から目立つようになったのか、どのような場面で困っているのかという点です。たとえば、薬の飲み忘れや火の消し忘れ、同じ物を何度も買うなど、生活にどのような支障が出ているかを具体的に書いておきましょう。
また、本人が物忘れを指摘されたときにどのような反応をするか、気分の落ち込みや怒りっぽさなど性格の変化がないかも大切な情報です。[3]あわせて、持病や服薬状況、家族が困っていることもまとめておくと、相談がスムーズになります。
親の物忘れが心配なときの相談先
親の物忘れが気になるときは、家族だけで抱え込まず、早めに相談することを検討しましょう。物忘れの状態や本人の様子に応じて、次のような相談先があります。
- 精神科・心療内科
物忘れに加えて、気分の落ち込み、不安、怒りっぽさ、意欲の低下などがみられる場合は、精神科・心療内科も相談先になります。認知症かどうかに限らず、心の状態や生活上の困りごとを含めて相談できます。
- かかりつけ医
普段から診てもらっている医師に相談すると、持病や服薬状況も含めて確認してもらいやすいでしょう。必要に応じて、専門の医療機関を紹介してもらえる場合もあります。
- もの忘れ外来
もの忘れ外来は、物忘れや認知機能の低下について専門的に相談できる外来です。検査や今後の対応について、相談したい場合に選択肢になります。
- 地域包括支援センター
地域包括支援センターは、高齢者の生活や介護に関する相談窓口です。受診先に迷う場合や、家族の関わり方を相談したいときにも利用できます。
親の物忘れがひどいと感じたら、まずは相談
親の物忘れがひどいと感じても、すぐに認知症と決めつける必要はありません。大切なのは、生活への支障や気分・性格の変化を確認し、必要に応じて早めに相談することです。
物忘れに加えて、気分の落ち込みや不安、怒りっぽさなどがみられる場合は、心療内科や精神科も相談先の一つです。家族だけで抱え込まず、医療機関や地域の相談窓口を活用しましょう。
参考
