コミュニケーションが苦手な大人の発達障害とは?自閉スペクトラム症(ASD)の特徴を紹介

「コミュニケーションが苦手で仕事が辛い」
「職場の空気や暗黙のルールを理解できず、ギクシャクしてしまう」
「決まった手順やルーチンを大切にしているため、些細な変更でも強い不安やストレスを感じてしまう」
こういった対人関係や社会生活における「生きづらさ」に悩む方は少なくありません。
実はこのような困りごとの背景には、『自閉スペクトラム症(以下、ASD)』という発達障害が関連しているかもしれません。
ASDの特性としては、言葉以外の非言語的コミュニケーションが特に苦手であったり、強いこだわりや反復行動が見られたりすることなどが挙げられます。子どもの時には気づかれず、大人になってから初めてASDの特性に気づくケースも多いです。
この記事では、ASDの特徴や原因、治療法、またASD当事者への関わり方について詳しく解説します。
監修
尾西こころのクリニック
院長 河邊眞好
名古屋市立大学医学を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療・訪問診療等に従事。稲沢厚生病院部⾧を経て、現在は医療法人優真会尾西こころのクリニック院⾧として地域に密接した精神医療に尽力しています。
自閉スペクトラム症(ASD)とは
自閉スペクトラム症(ASD)は発達障害の1つで、決してめずらしい障害ではありません。ここでは、自閉スペクトラム症の概要についてご紹介します。
大人の発達障害の1つ
ASDは、かつては自閉症やアスペルガー症候群といった発達障害として分類されていましたが、現在は自閉スペクトラム症(ASD)というひとつの診断名に統一されています。[1]
以前、ASDは小児の病気と考えられてきましたが、近年では年齢に関わらず認められる発達障害ととらえられています。子どもの時には気づかず、大人になってから初めてASDに気づかれるケースも少なくありません。
自閉スペクトラム症(ASD)の割合
ASDの割合は、20人〜40人に1人程度と考えられており、決してめずらしい数ではありません。以前は、男性に多いとされていましたが、女性は症状がわかりにくいことが背景にあり、現在は女性のASDについても注目されています。[2]
自閉スペクトラム症の特性
ASDの特性には、コミュニケーションの苦手さや、社会適応能力の低さ、決まったルーチンや習慣などを持つことなどが挙げられます。
ここではASDの特性について詳しく解説します。
人とのコミュニケーションが困難
自閉スペクトラム症の特性として、言葉以外の非言語的コミュニケーションが特に苦手な傾向があります。
たとえば、相手と視線を合わせづらく、すぐに目をそらしてしまうことが多く見られます。また、人や状況そのものに対して関心が薄く、自然に関わるのが難しい場合が多いです。
こうした対人的なやりとりや感情的な交流が不足しがちで、傷ついたときにも他者に慰めを求める行動が少ない特性があります。一方で、人見知りや遠慮は乏しいという、独特な社会性の現れ方が見られることも少なくありません。
また、場の空気に合わせて自身の行動を調整したり、他者の感情を察知し適切な反応をとったりすることも苦手とされています。
社会的適応が困難
社会のルールや状況を直感的に理解するのが難しいのもASDの特徴です。複数人の中で自分の「役割」や「立ち位置」といった関係性を把握することが苦手なため、対人関係の中でギクシャクしたり、トラブルにつながったりすることもあります。
決まったルーチンや習慣がある
強いこだわりや決まった手順を大切にする傾向も、ASDの特性の1つです。たとえば、決まった時間に薬を飲んだり、バスの中でいつも毎回同じ場所に座ったりと特定のルーチンを守ろうとします。そのため、季節の変化や人事異動、日常の些細な変更でもストレスを感じやすくなります。
興味の範囲が狭い
特定分野に対する興味が極めて強い場合が多く、その分野に関する知識や情報を深く追求します。日常生活や他の分野への関心は乏しくなることがある一方で、専門領域では高い能力を発揮することも少なくありません。
自閉スペクトラム症の原因
ASDの原因は今のところ完全には解明されていません。一方で、遺伝的要因や環境的要因が複雑に関与していると考えられています。
また、ASDは生まれつきの脳の発達の違いや、脳機能の異常に起因するところもあり、親の育て方や愛情不足などが原因ではありません。
ここではASDの原因について、詳しく解説します。
遺伝要因
ASDの原因の1つに、遺伝要因があります。ある日本人のASD当事者のDNAに関する研究では、遺伝子の異常がASDの発症に関与し、とくに知的発達障害をもつASDでは遺伝的影響の割合がより大きい可能性があることがわかっています。[3]
また、一卵性双生児で1人がASDの場合、もう1人もASDの診断を受ける確率が高いこともわかっており[4]、ASDの発症に遺伝要因が影響している可能性があることがいえるでしょう。
環境要因
ASDは遺伝要因に加え環境要因が影響し合うことで発症すると考えられています。ある研究ではASDの環境要因として以下の要素をあげています。[5]
- 妊娠初期の母親の喫煙
- 妊娠中の水銀や農薬への曝露
- ビタミン等の栄養不足
- 両親の高齢
- 低出生体重児
また、母親の妊娠中の肥満や高血圧なども影響する可能性があるという研究があります。[6]
自閉スペクトラム症の治療
ASDの治療には、応用行動分析やソーシャルスキルトレーニングといった非薬物療法や、抗精神病薬や抗うつ薬などの薬物療法を患者さんの状況に合わせて行います。
ここではASDの治療について詳しくご紹介します。
非薬物療法
ASDの非薬物療法の一つに、日常の困った行動を見て、その行動のきっかけや結果に注目し改善していく「応用行動分析(ABA)」があります。ABAは「状況:どんな時に」「行動:どんな行動をしたら」「結果:どうなった」というように3段階の視点で問題を分析する技法です。
望ましい行動が達成できたときは、段階ごとにフィードバックや褒美を活用しながら、着実にステップアップできるよう支援します。
また、社会的スキルを身につける「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」もASDの非薬物療法の1つです。実際の社会参加や対人場面を想定し、あいさつ・依頼・断り方などをロールプレイングやグループワークで練習します。
ほかにも、家庭や学校・職場の環境調整、保護者向け指導(ペアレントトレーニング)なども実施されます。[7] 個々の特性や生活状況に応じて複数の方法を組み合わせて、専門家・支援者・家族が協力しながら支えることが重要です。
薬物療法
ASDを根本的に治療する薬は現在のところありません。一方で、かんしゃくや強迫的なこだわり行動などといった症状を緩和させる目的で、対症療法的に薬物療法を行います。
具体的には、アリピプラゾールやリスペリドンなどの抗精神病薬や、抗不安薬・睡眠薬などを使用します。攻撃性やイライラ・不安感・不眠などを緩和する目的で使用します。
抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を使用するケースも少なくありません。SSRIは不安や強迫的な行動、反復行動を緩和させる作用があります。主な副作用は嘔気、不安感、頭痛などがあります。
自閉スペクトラム症の方との関わり方
自閉スペクトラム症(ASD)の方と接する際は、特性を理解し、相手の気持ちやペースを尊重することが大切です。コミュニケーションが苦手な場合や、急な予定変更・環境の変化に強い不安やストレスを感じることもあります。
話すときは、わかりやすく簡単な言葉で、伝えたいことをはっきり示しましょう。指示やお願いごとは、できるだけ具体的に伝え、曖昧な表現や遠回しな言い方を避けると円滑なコミュニケーションにつながりやすくなります。
また、強いこだわりやルーチンを大切にしている場合は、無理に変えようとせず、その人が安心できる環境や習慣をできるだけ守るよう配慮しましょう。困った行動や戸惑いが見られても、叱るよりも状況や本人の気持ちを理解しようとする姿勢が大切です。
周囲の理解や温かな支援によって、ASD患者さんが安心して日常生活を送れるようになります。
受診の目安
「対人関係の困りごとや社会生活の困難感が長く続いている場合」や、「仕事や家庭、日常生活でうまく適応できず悩んでいるとき」には、精神科・心療内科など専門医療機関や障害者支援センターなどに早めに相談しましょう。
ストレス状態が続くと、抑うつ的になったり、突如パニック状態になったりするおそれがあります。[8]
また、大人になってから自分の困りごとや特性に気付き、「これまでの生きづらさの理由が知りたい」と感じた場合も、早めに受診・相談をしましょう。早めに特性に気づき、困りごとへの工夫や周囲からの支援を受けることで、気持ちが楽になったり、社会生活での困難が軽減されたりすることがあります。就労や人間関係のトラブルが減り、安心して自分らしく過ごすためのヒントも得られるでしょう。
まとめ|コミュニケーションが苦手で生きづらさを感じる方へ
ASDはコミュニケーションの難しさや強いこだわりなどの特性があり、大人になってから気づくケースも少なくありません。適切な治療や特性を理解した支援を行うことで、生きづらさは軽減できます。困りごとが続く場合は、早めに専門機関へ相談しましょう。
参照
[1] 傳田健三,自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解,心身医学57:19-26,2017
[2] 一般社団法人日本自閉症協会|自閉スペクトラム症(ASD)について学ぶ
[3] 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構|日本人の自閉スペクトラム症患者の遺伝的背景を探索
[4] 厚生労働科学研究成果データベース|発達障害者の病因論的考証及び疫学調査等に基づく実態把握のための調査研究