社交不安障害で仕事に悩む方へ|退職前に考えたい働き方の工夫

会議で発言できない、電話に出るのが怖い、上司への報告を避けてしまうなど、仕事中の強い不安に悩んでいませんか。
社交不安障害では、周囲から注目されたり評価されたりする場面で、不安や緊張が強まることがあります。仕事への支障が続くと、「自分には今の仕事が向いていない」「辞めたほうがよいのでは」と考えてしまう方もいるでしょう。
本記事では、社交不安障害によって仕事がつらくなりやすい場面や、職場で試せる工夫、働きやすい環境の考え方について解説します。
監修
尾西こころのクリニック
院長 河邊眞好
名古屋市立大学医学を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療・訪問診療等に従事。稲沢厚生病院部⾧を経て、現在は医療法人優真会尾西こころのクリニック院⾧として地域に密接した精神医療に尽力しています。
社交不安障害で仕事がつらくなりやすい場面
社交不安障害の方で「仕事がつらいな」と感じる方もいるでしょう。ここでは、どのような場面の際に仕事がつらいと感じやすいかをご紹介します。
会議やプレゼンで発言するとき
社交不安障害の場合、人前で注目を浴びたり、周囲から評価されたりする場面に、強い不安や恐怖を感じることがあります。
会議やプレゼンでは、
「うまく話せなかったらどうしよう」
「声や手の震えに気づかれるかもしれない」
「失敗して低く評価されるかもしれない」
このような考えが浮かび、会議での発言や発表を避けてしまう方もいるでしょう。
また、発言を求められる前から緊張が続き、仕事に集中できなくなることもあるかもしれません。
学生時代には避けられていた人前で話す場面も、仕事では避けにくくなります。実際に、自分の振る舞いや不安症状を見られ、否定的に評価されることへの恐れが強まり、仕事への支障をきっかけに受診される方もいます。
電話対応や上司への報告をするとき
社交不安障害では、自分の受け答えを否定的に評価されたり、失敗を見られたりすることへの不安が強くなる場合があります。[1]
電話対応では、相手の表情が見えないまま、その場で返答しなければなりません。言葉に詰まることや声の震えを気にして、電話に出る前から緊張したり、対応を避けたりすることがあります。
上司への報告では、内容に間違いがないか、能力が低いと思われないかと上司からの評価を過度に気にしてしまい、不安が強まることもあるでしょう。その結果、必要な報告を先延ばしにしたり、一人で問題を抱え込んだりするなど、業務の進行に影響する場合も少なくありません。
休憩時間や職場の雑談に参加するとき
同僚との会話の中でも「つまらないと思われないか」「変なことを言って笑われないか」など、相手からの評価を強く気にする方もいるでしょう。
話題が決まっていない雑談では、その場で返答を考える状況も少なくありません。そのため、自分の表情や声、話し方ばかりが気になり、会話の内容に集中しにくくなる場面もあるでしょう。
厚生労働省の資料でも、同僚との昼食やコーヒーブレイクでの会話が、不安を感じる社交場面の例として挙げられています。[1]また、話す内容を事前に繰り返す、自分から話しかけない、相手の目を見ないといった行動も例示されています。[1]
社交不安障害がある方が職場で試せる工夫
会議や電話、上司への報告などで不安や緊張が続くと、「今の仕事を辞めたほうがよいのでは」と考えることもあるでしょう。
ただし、社交不安障害によるつらさは、仕事全体ではなく、注目や評価を受ける特定の場面で強く現れる場合があります。退職を決める前に、苦手な業務や仕事への影響を整理すると、業務の調整や休職など、ほかの選択肢も検討しやすくなるでしょう。
ここでは、社交不安障害の方が退職を判断する前に、確認したい仕事の工夫をご紹介します。
不安を感じる場面を具体的に記録する
仕事をする中で、どの場面で不安や緊張が強くなるのかを書き出してみましょう。
- 朝礼で突然指名され、意見を求められた時
- 上司に仕事内容について、口頭で報告が必要な時
- ほかのスタッフと休憩時間を一緒に過ごす時
このように状況を具体的に記録します。
そのときに浮かんだ考えや身体の変化、避けた行動、不安の強さも残しておくと、自分が負担を感じやすい条件が見えやすくなります。仕事全体が苦手なのか、特定の業務で不安が強まるのかを分けて考える際にも役立つでしょう。
話す内容を事前に準備する
電話や上司への報告で不安や緊張が強まる場合は、伝える要点を簡単にメモしておくことも方法の一つです。報告の結論や伝える事実、確認したいことを整理すると、緊張したときにも頭がパニックにならず、話の流れを確認しやすくなります。
ただし、一言一句を台本にして何度も練習すると、「予定どおり話さなければならない」という不安が強まる場合があります。文章を丸暗記するのではなく、伝えたい要点を箇条書きにする程度にとどめるとよいでしょう。
上司や職場の相談窓口に伝える
不安によって仕事に支障が出ている場合は、上司や人事・労務、産業医、社内の相談窓口へ状況を伝えることも検討してみましょう。利用できる窓口や制度は職場によって異なるため、就業規則や社内案内などで確認できます。
相談するときは、「人前が苦手」とだけ伝えるのではなく、困っている場面と業務への影響を具体的に説明します。例えば、「会議で急に指名されると言葉が出ない」「電話対応を避けて業務が遅れる」などです。
一方で、相談後に希望した調整がすべて受けられるとは限りません。職場の制度や仕事内容を踏まえ、無理なく取り入れられる方法を話し合うことが必要です。
「向いている仕事」より働きやすい環境を考える
社交不安障害があるからといって、特定の仕事がすべての方に向いているとは限りません。電話対応に強い不安を感じる方もいれば、会議での発言や同僚との雑談に負担を感じる方もいるなど、人によって感じ方は異なるためです。
仕事を選ぶときは、職種名だけで判断せず、どのような場面で不安が強くなるのかを踏まえて、働きやすい環境を考えてみましょう。
例えば、次のような条件が負担の軽減につながる場合があります。
- 担当する業務や役割が明確になっている
- 予定や会議の内容を事前に確認できる
- 電話や接客の頻度について相談できる
- 口頭だけでなく、メールや文書でも指示を受けられる
- 一人で作業に集中できる時間が確保されている
- 困ったときに相談できる上司や担当者がいる
実際に、社交不安障害があり、大勢の人がいる場所では緊張が高まり、仕事に集中しにくかった方の事例もあります。厚生労働省の資料では、対象者が在宅勤務によって安定して働き続け、スキルを身につけながら、担当できる仕事を増やしたことが紹介されていました。[2]
「人と関わらない仕事」を探すだけでなく、現在の仕事で負担になっている条件と、調整できる部分を分けて考えることが、働き方を見直す手がかりになります。
社交不安障害と仕事に関するよくある質問
社交不安障害と仕事について悩む方の、よくある質問をご紹介します。
Q.病院を受診すると、すぐに休職を勧められますか?
受診したからといって、一律に休職を勧められるわけではありません。初診では、不安が生じた経緯や症状、仕事や生活への影響などを確認したうえで、治療方針を検討します。
症状が強く、働き続けることで悪化するおそれがある場合は、休養を提案されることもあるでしょう。一方で、通院を続けながら、業務内容や勤務時間を調整する方法が検討される場合もあります。就業を続けられるかどうかは、本人の意向や症状の経過、医師の意見などを踏まえて慎重に判断されます。
Q.初診では、仕事について何を伝えればよいですか?
初診では、会議や電話、上司への報告など、どのような場面で不安が強くなるのかを伝えましょう。症状が始まった時期や身体に現れる変化、避けている業務についても伝えると、状況を把握してもらいやすくなります。
欠勤や遅刻が増えた、仕事に集中できない、睡眠や食事に影響が出ているなど、生活上の変化も診察の手がかりになります。心療内科や精神科の初診では、これまでの経過を詳しく確認するため、うまくまとめて話そうとしなくても問題ありません。
Q.仕事の悩みだけでも心療内科や精神科を受診できますか?
仕事中の不安や緊張によって、業務や日常生活に支障が出ている場合は、仕事の悩みが中心でも心療内科や精神科へ相談できます。
初診では、会議や電話など不安を感じる場面、症状が始まった時期、欠勤や遅刻、睡眠や食事への影響などを伝えましょう。
なお、医療機関によって診療対象が異なるため、社交不安障害に対応しているかを予約前に確認しておくと安心です。
社交不安障害による仕事の悩みを一人で抱えないで
社交不安障害があると、会議や電話、上司への報告など、周囲から注目される場面で強い不安を感じることがあります。そのため、「仕事に向いていない」「辞めるしかない」と自分を責めてしまう方もいるでしょう。
しかし、仕事全体が難しいのではなく、特定の業務や職場環境が負担になっている場合もあります。まずは不安が強くなる場面を整理し、業務の調整や相談窓口の利用など、取り入れられる工夫を検討してみてください。
不安によって仕事や日常生活への支障が続いている場合は、心療内科や精神科へ相談する方法もあります。仕事を続けるか迷っている段階でも、一人で結論を出さず、現在の状況から話してみましょう。
参考
