自閉スペクトラム症(ASD)

ASDで仕事が続かないのはなぜ?大人に多い職場の悩みと対処法

「また仕事を辞めたくなっている」「どの職場に行っても人間関係で疲れてしまう」と、仕事が続かないことに悩んでいませんか。

ASDのある方は、あいまいな指示の理解や急な予定変更、職場での雑談、音や光などの刺激に負担を感じることがあります。[1]仕事が続かない背景には、本人の努力不足ではなく、特性と職場環境の相性が関係している場合もあるでしょう。

この記事では、ASDのある大人が仕事でつまずきやすい場面や、仕事を続けやすくするための工夫、相談先となる心療内科や精神科について解説します。

監修

尾西こころのクリニック
院長 河邊眞好

名古屋市立大学医学を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療・訪問診療等に従事。稲沢厚生病院部⾧を経て、現在は医療法人優真会尾西こころのクリニック院⾧として地域に密接した精神医療に尽力しています。

ASDで仕事が続かないと感じるのはなぜ?

仕事が続かないと感じる理由は、人によって異なります。

ASDの特性がある方の場合、職場で当たり前のように求められる「空気を読む」「臨機応変に対応する」「雑談を交えて関係を作る」といったことが、大きな負担になる場合があります。

ここでは、ASDの方が仕事が続かないと感じる背景について、みていきましょう。

曖昧な指示や急な変更に対応しにくい

職場では、「なるべく早めにお願い」「いい感じにまとめておいて」「前と同じようにやっておいて」など、はっきりしない指示が出ることがあります。

ASDの場合、こうした言葉だけでは、何を・どの順番で・どこまで行えばよいのか判断しにくいことも少なくありません。たとえば「早めに」と言われても、今日中なのか、1時間以内なのか、人によって受け取り方が違います。その認識のずれから、本人はきちんと対応したつもりでも「遅い」「指示と違う」と注意されてしまうこともあるでしょう。

また、予定していた作業の途中で急に別の仕事を頼まれると、気持ちの切り替えに時間がかかることもあります。予定外の対応が続くと、仕事そのものよりも「次に何が起こるかわからない」ことに疲れてしまう方も少なくありません。

 

職場の人間関係や雑談で疲れやすい

仕事では、業務だけでなく人との関わりも求められます。

  • 出勤時や久しぶりに会うかたとの何気ないあいさつ
  • 休憩中に休憩室や食堂などでの日常的な雑談
  • 会議場面でのプレゼンテーションや、意見を求められた時の発言
  • 上司に進捗状況などの状況報告

このように、職場には細かなコミュニケーションのやりとりが欠かせません。

ASDのある方は、相手の表情や声のトーンから気持ちを読み取ったり、場の雰囲気に合わせて返答したりすることに、負担を感じる場合があります。悪気なく正直に伝えた言葉が「きつい言い方」と受け取られたり、冗談を真に受けて会話がかみ合わなかったりすることもあります。

そのような経験が続くと、「また変に思われたかもしれない」「何を話せば正解なのかわからない」と不安が強くなり、人と関わるだけで疲弊してしまうこともあるでしょう。


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感覚過敏や疲労による働きづらさ

ASDのある方のなかには、音や光、におい、人の多さなどに敏感な方も少なくありません。電話の音、キーボードの打鍵音、蛍光灯の明るさ、香水や食べ物のにおいなど、周囲にとっては気にならない刺激が強い負担になることがあります。

たとえば以下のような状況が考えられます。

  • オープンなオフィスで周囲の会話が常に聞こえると、目の前の作業に集中しにくくなる
  • 集中しすぎて休憩を忘れ、帰宅後に動けないほど疲れてしまう

こうした疲れは周囲から見えにくいため、「なぜ普通に働いているだけでこんなに疲れるのだろう」と本人も悩みやすい点です。

 

ASDのある大人が職場で抱えやすい悩み

ASDの特性は、職場のさまざまな場面で困りごととして現れることがあります。ここでは、仕事を続けるうえで悩みやすい内容をみていきましょう。

報連相や会話がうまくいかない

報連相は大切だとわかっていても、「どのタイミングで声をかければよいのか」「どこまで詳しく話せばよいのか」がわからず、困ることがあります。

たとえば、上司が忙しそうにしていると声をかけるタイミングを逃してしまい、結果的に報告が遅れることがあります。逆に、細かく説明しすぎて「結論から話して」と言われることもあるかもしれません。

本人は一生懸命伝えようとしていても、職場で求められる伝え方とずれてしまうと、報告不足や確認不足と受け取られてしまうことがあります。

ミスや注意が重なり自信を失う

作業手順があいまいだったり、複数の業務を同時に進める必要があったりすると、ミスが増える場合があります。

たとえば、「Aが終わったらBをして、途中で電話が来たらCも対応する」といった状況では、優先順位がわからなくなり混乱。本人は真面目に取り組んでいても、職場の暗黙のルールが見えにくいと、求められている行動とずれてしまうこともあります。

注意が重なると、「自分は仕事ができない」「また同じことをしてしまった」と自信を失うきっかけにつながりかねません。これまでの職場でも似たような経験があると、自信のなさが退職の検討につながることもあるでしょう。

環境に慣れる前に退職を考えてしまう

新しい職場では、仕事内容だけでなく、人間関係、職場のルール、休憩の取り方、上司への相談方法など、覚えることが多くあります。

ASDのある方にとって、見通しが立ちにくい環境は大きなストレスになる場合があります。入職して間もない時期に疲れや不安が強くなると、「この職場も合わないかもしれない」と早い段階で退職を考えてしまう方もいるでしょう。

発達障害のある方は、得意なことや苦手なこと、サポートが必要な場面を整理することで、自分に合う働き方を考えやすくなる場合があります。[1]すぐに「自分には無理」と決めつけず、どの場面で困っているのかを整理することも検討してみましょう。

 

仕事を続けやすくするためにできる工夫

仕事を続けやすくするには、苦手なことを気合いで乗り越えようとするだけでなく、困りごとが起きにくい形に整えることを意識してみましょう。自分でできる工夫と、周囲に相談できることを分けて考えてみることも大切です。

指示や作業手順を見える形にする

口頭だけの指示では抜けやすい場合、メモやホワイトボードに書くなど、あとから見返せる形に残す方法があります。[2]

たとえば、上司に「口頭だと抜けてしまうことがあるため、メモで確認してもよいですか」と伝えるだけでも、作業しやすくなる場合があります。業務の流れを「今日中にやること」「確認が必要なこと」「終わったこと」に分けて書き出すのもよいでしょう。

頭の中だけで整理しようとせず、見える形にすることで、優先順位や抜け漏れに気づきやすくなります

苦手な業務や疲れやすい場面を整理する

仕事が続かないと感じるときは、「仕事全部がつらい」と考えるのではなく、どの場面で負担が大きいのかを分けて考えてみましょう

たとえば、電話対応が苦手なのか、急な予定変更がつらいのか、雑談の多い職場が疲れるのか、音や光で集中しにくいのかによって、必要な対策は変わります。

  • 電話対応が苦手な場合は、よく使う言葉をメモにしておく
  • 予定変更が苦手な場合は、変更内容をチャットでも共有してもらう
  • 音がつらい場合は、休憩時間だけでも静かな場所で過ごす

このように、小さな工夫を続けるだけでも負担を減らせることがあります。

一人で抱えず職場や支援機関に相談する

仕事の悩みを一人で抱えていると、限界まで我慢して退職を考えてしまう方もいるでしょう。信頼できる上司や人事担当者、産業保健スタッフなどに、困っている場面を具体的に伝えることも方法のひとつです。

相談するときは、「ASDなので配慮してください」と伝えるよりも、「口頭の指示だけだと抜けやすいため、メモでも確認したいです」「急な変更があると混乱しやすいため、優先順位を確認したいです」のように、困りごとと希望する対応をセットで伝えると話しやすくなります。

職場で困っていることを整理し、必要に応じて働き方や業務の進め方を相談することは、仕事を続けやすくするうえでも大切な視点です。

 

仕事の悩みが続くときは心療内科・精神科で相談を

ASDかもしれないと感じている方や、仕事の悩みから不眠、気分の落ち込み、不安などが続いている方は、心療内科や精神科で相談することも選択肢のひとつです。

仕事が続かない背景には、ASDの特性だけでなく、うつ病や適応障害、不安、不眠などが重なっている場合もあります。自分だけで原因を判断しようとせず、今起きている困りごとを整理して相談することが大切です。

ASDの特性や二次的な不調を相談できる

心療内科や精神科では、仕事での困りごとや生活への影響、気分の落ち込み、不眠、不安などについて相談できます。大人の発達障害の検査や診断に対応しているかは医療機関によって異なるため、受診前に確認しておくと安心です。

受診前に仕事で困っている場面を整理しておく

受診時には、「上司の指示があいまいだと混乱する」「報連相のタイミングがわからない」「職場の音や人の多さで疲れやすい」など、具体的な場面をメモしておくと伝えやすくなります。

これまでの転職歴、注意されやすい内容、睡眠や体調の変化、幼少期からの傾向なども整理しておくと、医師が状況を把握しやすくなります。

必要に応じて支援機関の利用を相談する

仕事を続けるためには、医療機関での相談に加えて、働き方や職場環境を整える支援が役立つ場合もあります。必要に応じて、発達障害者支援センターや就労支援機関などの利用について、心療内科や精神科で相談してみるのもよいでしょう。[1]

相談がきっかけで、仕事を続けるうえでのこまりごとを整理しやすくなる場合もあります。まずはご自身の悩みを整理し、専門機関で一緒に考えてもらうことも検討してみましょう。

 

ASDで仕事が続かないと悩んだら一人で抱え込まず相談を

ASDの特性による働きづらさは、本人の努力不足だけでなく、職場環境や人間関係との相性が影響している場合があります。「また仕事が続かなかった」と一人で抱え込まず、まずは困っている場面を整理することから始めてみましょう。

不眠や気分の落ち込み、不安などが続いている場合は、心療内科・精神科で相談することも選択肢のひとつです。

尾西こころのクリニックでは、仕事や人間関係の悩み、発達特性による生活上の困りごとについて相談を受け付けています。つらさが長引いている場合は、無理を重ねる前に、心療内科・精神科で相談することも検討してみましょう。


参考

[1]政府広報オンライン|発達障害に気付いたら?大人になって気付いたときの専門相談窓口

[2]厚生労働省|特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)|発達障害のある方への職場における配慮事例のご紹介